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[罪喰い] 赤江 瀑

[罪喰い] 赤江 瀑/講談社文庫※絶版

この作家を知ったのは、今から一昔ばかり前のことになります。そうして、その時点で著作の大方が絶版・長期在庫切・再版未定という状態にありました。

初めて読んだ作品は[阿修羅花伝]という、能面打ちの青年の凄絶な生き様を綴った短篇でした。日本語というものが、これほど奇麗で、残酷で、酩酊すら覚えさせ得る文章に化けるものなのか、と。
当時、大学一回生で国文学国語学を学び始めたばかりの自分は酷く狼狽えたのでした。


本書には表題含む5篇の短篇が収録されています。
古代西洋に在ったという<罪喰い>という死者儀礼、新薬師寺の神将像に良く似た憤怒の貌を刻む木像…死者の罪を肩代わりするという因習の幻に執着する二人の新進建築家 <[罪喰い]
精神に一振りの白刃を抱く少年が覗いてしまった、花の香の絶えなくくゆる庭に取り込まれゆく庭師の業 <[花夜叉殺し]


圧倒的な、衒学趣味を思わせる博識と、方言を巧みに操り展開される会話…既に忘れられて久しい和語の感触。

兎に角、短篇とは思えないほどに濃厚。
私は全くアルコールを受け付けない体質なので、イメージでしかないけど、テキーラとかウォッカとか? そういう高濃度のお酒にじわじわと沈められていく感覚に近いのかも。

芸術にも、舞台にも。変わることなく過ぎていく日々の中にも。
"逢魔ヶ刻"と呼ばれる刹那があるように。

赤江文学というのは、非日常から日常へ、そっと紛れ込まされた想像という無間地獄へ至る片道切符なのかも知れない。


だって読みたくても著作の9割方が絶版で読めないんだもの(苦笑)。咽喉は飢えたまま、氏が繰り出す幻術に酔わされるばかりです(ついでに古書探しにも翻弄されてます…)。



※興味ある方は大型の図書館などで検索される方が遭遇率は高いと思います。書庫に移動されてる場合が多いので、破損には重々ご注意を。

by yoiyamigentoukyou | 2008-10-01 01:45 | 読書/赤江 瀑