カテゴリ:読書/赤江 瀑( 18 )
ご冥福を。



今朝、訃報を読んで「遂に…」と思ったのが正直な感想です。
私が生まれる前後辺りに最も活躍されていた、本当に鮮やかに言葉を繰る作家で終生いらっしゃった方だと思います。

これまでも、これからも。
私にとっては唯一無二の「ことば」の深淵を導いて下さる、敬愛して止まない方です。
本当に本当に、数多の「ことば」たちを遺して下さり、有難うございます。


稚ない一読者に過ぎませんが、謹んでご冥福をお祈りいたします。

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by yoiyamigentoukyou | 2012-06-19 11:46 | 読書/赤江 瀑
懐かしの。
b0142526_2274722.gif滅茶苦茶、凄い懐かしいデータを発掘したので早速持ち込んでみました。
赤江氏の[星踊る綺羅の鳴く川]の表紙アイコン。
色々と作ったんです、数年前。

…すーごく目が疲れたのを思い出す(遠い目)。



京極本のとかは、前のblogに残ってるかな?
日曜は絶版古書を持ち込みに出掛けます。須永サンの[就眠儀式](国書から出た再版のじゃなく西澤からの初版。状態は凄くいいのでちょっと勿体無い気もしなくもないけど)とか、安部公房とか…購入した時の総額だと諭吉一枚は越えてる気もするんだけどメモってないから判らん)。

他にも色々、気付いたら絶版なモノはあるんですが…やっぱり手放せるタイトルは少なかったorz


ちょっとでも高額で求めてる方の手に渡るといいな。
ビアズレーの挿画のサロメとかもあるけど、これは崩壊寸前のモノを承知で購入したこともあり放出出来ず…結局古書で求めたものを古書に回すだけなので意味があるのかは甚だ微妙な印象もあるのですけど…書棚の肥やしで置くよりは役に立つ方がいいし。

…しかして花粉が辛すぎるorz

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by yoiyamigentoukyou | 2011-03-27 02:44 | 読書/赤江 瀑
赤江 瀑作品 所有リスト ※2010.8月現在
手持ち無沙汰なので、前々からしようと思っていたことを。


一応刊行の新→旧の順を目安に(でも多分間違ってる)。
結構頑張って蒐めたよね、と自分でも引く。


単行本(小説)>>
狐の剃刀 ※現状最新刊・未文庫化
日ぐらし御霊門 ※未文庫化
星踊る綺羅の鳴く川 ※未文庫化
弄月記 ※未文庫化
霧ホテル ※未文庫化
山陰山陽小説集 飛花 ※選集
月迷宮 ※未文庫化
京都小説集 夢跡 ※選集
京都小説集 風幻 ※選集
アルマンの奴隷 ※未文庫化
ガラ ※未文庫化
遠臣たちの翼
八雲が殺した
十二宮の夜 ※未文庫化
春泥歌
鬼会
アポロン達の午餐 ※未文庫化
鬼恋童
金環食の影飾り


単行本 他(エッセイ的な)>>
赤江瀑の「平成」歌舞伎入門 ※新書
凶鳥の黒影 
戯場国の森の眺め
オルフェの水鏡


文庫本>>
灯籠爛死行 ※選集
禽獣の門 ※選集
花夜叉殺し ※選集
赤江瀑名作選 ※選集
虚空のランチ ※ノベルス・選集
ニジンスキーの手 ※ハルキ文庫
オイディプスの刃 ※ハルキ文庫・角川文庫映画スチール使用
光堂
夜叉の舌
ポセイドン変幻
荊冠の輝き
春泥歌
舞え舞え断崖
野ざらし百鬼行
八雲が殺した
アンダルシア幻花祭
花酔い
海峡 この水の無明の真秀ろば
風葬歌の調べ
上空の城
正倉院の矢
海贄考
美神たちの黄泉
アニマルの謝肉祭
鬼恋童
春喪祭
妖精たちの回廊
獣林寺妖変
青帝の鉾
花曝れ首
蝶の骨
マルゴォの杯
罪喰い


特装本(総て未来工房刊/署名・落款あり)>>
禽獣の門 ※A5・1979年印刷・2004年製本
花曝れ首 ※豆本・2003年
五月の鎧 ※豆本・2004年(下記と2冊組)
野ざらし百鬼行 ※豆本・2005年(上記と2冊組)



基本的に「読めればいい」ので初版だとか状態とかには拘らない(獣林寺とかカバー損壊寸前だったりするけど; 恐いので読むときにはカバー外す)。
オイディプスとかマルゴォとか…横尾さんの装丁のものも欲しいなーとか探してるものはある。

重複してるものは意図的にというより単純ミスでの購入が多い。
ちゃんとリンク貼って書誌化まで行いたいけど…何時になることやら;

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by yoiyamigentoukyou | 2010-08-28 02:37 | 読書/赤江 瀑
[花曝れ首] 赤江 瀑/未来工房
[花曝れ首] 赤江 瀑/※未来工房 特装本


親本は講談社。
取り敢えず、旧blogでの親本(但し文庫の方)に関する記述を以下に貼ってみます。



 ”地獄が怖うおすのんか。修羅がそんなに恐ろしおすか。
 好いた男と見る修羅や。おちる地獄やおちとみやす。”

赤江作品の中でも特に惚れ込んでいる短篇が[花曝れ首]である。冒頭に抜書きしたのは、氏が紡がれた名文の中でも取り分け推す方が多かろう、台詞の一部である。


陽射の厳しい化野(あだしの)の山道を独り歩む篠子。信じていた男に酷い裏切りを受けた彼女はこの地で春之助と秋童という、二人の若衆の幻と出逢い、二人と過ごすことで心を癒していた。だが仮初の安らぎは二人の陰惨な業が語られることで急速に終焉へと向かうことになる。
([花曝れ首])


読み方によってはミステリ的に捉えることも可能だと思われるので、細かくは語れないのですが、掛け合い漫才のような慣れを見せる春之助と秋童という、妖しである二人の若衆(というか色子と言い切った方がいいか)が後半、その因縁に絡め取られた本当の貌を曝す、その変容がまるで歌舞伎のぶっ返りのようで、禍々しいまでに鮮烈。

一人の曰く持ちの男を巡り、花のような顔(かんばせ)を関心欲しさに切り裂く少年の心の闇を思うとき、月夜にひそりと笠を開き、たった一晩だけの儚い刻の後に蕩け果てるというヒトヨダケの、繊細な皓さを何故か重ねてしまう(ガレ展の行き過ぎです、単に)。

だからこそ、篠子は修羅を往くか、己を偽ってまで恋を一切喪失してしまうかの岐路を選び取らなければならない。どちらも苦行の路に他ならないことを、二人の業に見せ付けられても…


本作には標題含め、鶴屋南北を扱った[恋怨に候て]などを含む5つの蟲惑的な世界が収められている。
毎回のことで恐縮ですが、こちらも絶版なので、古書または図書館でお探し下さい(比較的古書店で見かける率は高めかな、気のせいかもだけど)。



画像は2003年12月に刊行され、翌年直ぐに分けて頂いた特装豆本の[花曝れ首]とそのケースです。手のひらに収まる小さな小さな、毒を凝ごめた一冊です。本当は四季・四神の4色で表紙の革とケースの色が組合せになっていて、私のは<炎帝>の深紅です。
どの色合せも素敵なんですけど、やっぱりこのタイトルには陽炎を生じさせるような、愛を貫くことの煉獄を思わせる赤が似合うと思います。


修羅を歩むも地獄、歩まぬも地獄。
何かを胸に想うこと、それ自体が焔の業の始まりなのだとすれば。
誰も彼も、この陽炎経つ荊の路からは逃れられないのかも知れない。




…以上が転記した文章です。
書いた時が2005年ですから、物凄く昔な気さえします。
自分がこうして、赤江の特装本を所有出来る日が来るとは思いもしなかった。
偶然に検索して、未来工房さんのサイトに辿り着いたのが刊行日だったのです…申し込むまでに其処から数日掛かりました。青二才が会員制の世界に飛び入りとか、してもいいんやろか、と…悩みまくり。

しかしてこの機を逃せば二度と巡らないかも知れない。
意を決して問い合わせ、既に予約完売だったことを知る訳です(苦笑)。

「既に数名のキャンセル待ち(会員制だけど、時折り返品が生じるものらしく)があるけれど、お譲り出来ない可能性の方が高いけれど、それでも待てるなら受け付けるよ」と仰って頂けたので、宝くじ気分でお願いしたことを覚えています。

お正月明けだったかな、ご連絡を頂きまして。
「貴女は女性だから、赤の<炎帝>を取り置いてるよ」と、別件の案内と共に仰って頂けた時の凄まじいアドレナリン放出状態…手にした時の揮えは今も忘れられない感覚です。

b0142526_2152644.jpg


…画像だけで充分、贅の凄さが通じるかと思いますが。
一緒にご案内頂いたのは、何処かで既に書いてますが、[禽獣の門]特装本です。
製本時のイレギュラー事項に備えておいた予備が未製本で数部分見付かったので、希望するなら製本して頒布しますよ、と云う夢のようなご案内でした。

79年の刊行からまさか25年も経て、製本される本、と云うのも凄いですが…其のご縁を引き当てた私も何か、凄まじいな、と思う(苦笑)。

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by yoiyamigentoukyou | 2010-07-08 02:25 | 読書/赤江 瀑
[舞え舞え断崖] 赤江 瀑
[舞え舞え断崖] 赤江 瀑/講談社文庫 ※絶版

19890115 第一刷
講談社文庫 本体@380 275頁

女形の橋
水鏡の宮
耀い川
舞え舞え断崖
悪戯みち
柩の都
黒馬の翼に乗りて

解説:巌の花 小林孝夫



…書誌データ付記しようと思ったはいいけど、面倒いなorz
何よりNDCコードが奥付に無い(旧すぎ)…小説は、大分類が9だっけ?
多分912だか913。一昔前に演習で目録作業やったきりなんでもう曖昧。勤務先のコードは微妙にNDCと違うし;

余り細かく記載しても詮無いので、収録タイトルだけは列記していこうと思います。
表紙画像は手間なので載せません。





久々に読み返すと、やっぱりほとんど記憶に無かった。
過去が現在を呑み込むというか…回顧に付きまとう懐かしさや甘やかさ、郷愁の感覚は湧いて来ないのが赤江作品には多い気がする。

刺客のように唐突に影より裡を衝き、現在の生を果敢なくしてしまう。
それを、どの語り手も享受する。
不意に眼前に立ち上る陽炎のような罪科を――物語の中の僅かな呻吟の果てに嚥下することを是とする。


潔さは、多分、ほとんど無い。
ただ何処かで「待ち望んで居た」ことだけを識って居るだけ。

導かれる儘に、路を歩む。
気付かず血に塗れた足裏で、荊を踏み拉き――胸の裡にだけ存在する、己にだけ歩める咎喰いの路を。


永遠に彷徨い続ける六道の、
抜けられぬ無明の廻廊に過ぎぬとも。

私たちの身の回りには古典や詩歌、或いは懐かしい人の文……脳裡に刻まれた映像、言葉、表情。
ありとあらゆる″其の路″への陥穽が、手薬煉引いて其の刹那を待ち侘びている。





余談ですが、冒頭の[女形の橋]だけは単品で読むよりも事前に同著者の[罪喰い]を読まれておく方がより深く騙りに嵌れると思います。
勿論、能楽に詳しい方なら、其れが無くとも味わい深く読めると思いますが。

一本一本の感想というか、雑感は今後も控えるつもりです。
一冊にまとまった時にだけ立ち上る、其の表情や内包の傾向が面白いので。

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by yoiyamigentoukyou | 2010-06-28 01:39 | 読書/赤江 瀑
[鬼恋童] /赤江 瀑
[鬼恋童] /赤江 瀑 講談社


やっぱり結構、赤江関連で引っ掛かってるなぁ…
実のないエントリばっかりで本当、済みません;

さて、鬼恋童。
結構以前に、文庫版を購入しては居たのですが。
偶々300円均一の古書棚で単行本バージョンを発見したので捕獲しました。

何とも毒々しい、大蛇を思わせる背景に横溝グリーン(※旧角川文庫の横溝の背文字を想像下さい)。
うねうねと絡む愛欲に塗れた貌のない彫像…この意匠は、収録されてる[寝室のアダム]のイメージなんだろうなぁ。


兎にも角にも、どっぷり赤江の毒が滲み出ている短編集。
結構長く、この単行本を探していたので(表紙も凄く好みだったし、何より個人的に思い入れの深い[阿修羅花伝]が収録されていることもあり)入手出来て嬉しい一冊。


基本的に古書店、居ても5分です。
棚配置を覚えてる場合は2分も居ないかも…普段の仕事で鍛えた背表紙チェックで斜めにブロック別にさささーっと流して、引っ掛かったワードの箇所を探します。

赤江作品に関しては、余りにも探してる期間が長すぎたのか、割と書棚の方から引き寄せられてる気さえすることもあります…今回も何となく居そうな予感があったので覗いたら目が合った的な(うん、痛いコだな)。

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by yoiyamigentoukyou | 2010-03-12 00:54 | 読書/赤江 瀑
[アルマンの奴隷] 赤江 瀑
[アルマンの奴隷] 赤江 瀑/文藝春秋 ※絶版

昨年に入手しました。
学生時代、通っていた大学のある市の図書館は、整然と赤江作品が並ぶ、それは素敵な図書館でした。

大学図書館も、それはとても高名な施設ではありましたが…閉架式の上にDOS/V時代のコンピュータですからコマンド打ちでの検索は本当に骨の折れる作業で(他にはカードか目録から記号を記載して請求するしかなかったんだが);

…一冊借りるのに30分とか掛かる…しかも薄暗い…;


[アルマンの奴隷]は、その言葉の不思議な引力は勿論、作品内部に鎖された濃厚な時空間の捩れの印象が深かったのか、何故かずーっと、記憶に引っ掛かっていたタイトルでした。

作家の許に届いた一通の手紙−「僕を、アルマンと呼んでください。」と始まるその手紙には、学生時代に書き留めた詩歌を引用しての、見知らぬ男と"アルマン"なる男との明暗が訴えられていた。 <[アルマンの奴隷]

「古事記」に記された倭健の逸話が二人の少年に引き返せない路を示唆する魔を描いた。 <[脂粉の御子の頸]


収録の総てではないけれど、この一冊の中にはあらゆる形式での詩歌が含まれている。そうして、古典や芸能が取り上げられている。

何気なく忍び込んでくる一つの言葉、文章…場面。
ふとした刹那に浮上して、総てを失わせる…時限装置のような記憶の不思議さ、こわさ。


照明の弱い、閑寂の図書館の一角には。
確かに、数多くの、触れた者の生き路を左右してしまうほどの言葉たちが身を潜め息を殺し…待ち続けている。

そう思うと、氾濫する新しいコトバたちも何時の日かには魔性を帯びて来るのかも…そんな夢想を遊ぶこと自体が既に術中に嵌っているような気もしないでもなく。


しかし10年を越えて改めて読んでみると、この一冊の完成度の高さには瞠目するばかりです。
…そうして今読むと、どうしても活躍中の歌舞伎役者さんを当て嵌めちゃうなぁ…折り良く?スーパー歌舞伎[ヤマトタケル]が掛かってますしね。
※公演は終了してます、悪しからず。


※勿論絶版なので、図書館ないし古書にてお探し下さい。

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by yoiyamigentoukyou | 2008-10-23 02:33 | 読書/赤江 瀑
[アニマルの謝肉祭] 赤江 瀑
[アニマルの謝肉祭] 赤江 瀑/文春文庫※絶版?

最近ぽつぽつ、またぞろ赤江作品を再読している。
私は気に入った作品(場合によっては箇所)だけを延々と読み返す悪癖持ちなのですが、どういう訳かタイトルと内容を一致して記憶している作品はほとんど、なかったりする。

赤江作品も入手すると読むんだけど、よほど印象に強い短篇幾つか以外、タイトルをみても粗筋を読んでも記憶の引き出しから情報を引き出すことが出来ない(むしろ病的に欠落している)。

今回の[アニマルの謝肉祭]も、確か4、5回め位の再読にも関わらず…ものの見事に記憶に欠片も残っては居なかった。


楯林驍。27歳の若さにして世界に駆け上がったヘアデザイナー。容色も才もある若き獅子に唐突に降り掛かり始める厄災…同業者の不審な火災と死、そうして彼自身を貫いたカット用の専用鋏、付きまとう視線。

発端を遥か遠くに掠めつつ、七曜歌の響きを供に進行する不穏な物語。



JUNONに約2年に渡って連載されたこの作品は、誌のカラーに合わせてなのかモードを舞台に華やかに展開しつつもその実人の心や隠された過去といった舞台裏を暴いて終わる。

最終的に曝される真実は、ある部分で衝撃的だけれど、別の観点からすれば至極収まりのいい真実であるようにも思う。とまれ、そんな風に思うのは、私が歌舞伎慣れしているからだろう。

歌舞伎の物語は、大抵誤認と行き違いが悲劇を齎す。
総てが明るみになった時、既に悲劇は幕を引いて横たわって、堂々と見物衆を観察しているのだ。

どんなものでも、見物(或いは観測者)が最初に触れるのは発端ではない。常に何がしかの最中にある状態にしか触れることは出来ない(だから、文学も舞台も終焉までに発端を浚うし、閉じた後ですら完全な終了とはなり得ない)。


[アニマルの謝肉祭]は観測者の視点を意識的に喚起させる形で始まり、終了する長篇である。そうして発端だけを暴露して、その結果は描かれない(大筋では総ては語られているが、訪れるべき破局の様は読者の数だけあろう)。

結びの、彼の述懐に。
どうしてだかウロボロスの蛇を想った。果てなく互いの尾を喰い散らして、さて何時かは一つになるのだろうか。


それとも半ばで砕け果てるのだろうか。





※古書店か図書館でお探しください。
どうでもいいことですが、文庫版の表紙の色彩のパンクっぷりは如何なものかと見るたび思ふ(派手なんだか地味なんだか…半端っつーか;)。

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by yoiyamigentoukyou | 2008-10-21 02:31 | 読書/赤江 瀑
[荊冠の耀き] 赤江 瀑
[荊冠の耀き] 赤江 瀑/徳間文庫※絶版?

死が満ち充ちている。
直接であれ間接であれ…収録されている作品の背後に静かに横たわっているタナトスを感じずには居られない。

氏の作品には死を扱っているものが多いのだけれど(というか殆どの作品に死が描かれていると思う)、なんだか明確でない、ふわふわした綿飴のような…仄かに甘い誘いに絡め取られ往くことを待つような、そんな幻想のような死が連綿と紡がれている気がします。


手紙の形式で綴られるタナトスの衝動([四月に眠れ]) 、鏡の向こうへと焦がれる老役者の性([鏡の中空]) 


西行が詠んだように。
花の盛りに涅槃への階を幻視する。時には姿見の奥に封じた過去の己と対峙して。

ひとつを双つに分かち、その喪失に愛惜するより深く安堵する。永遠に解く術を失った謎ほど、抱え込むのに相応しい罪は無いのかも知れない。


春の花の盛り、己すら喪失する。

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by yoiyamigentoukyou | 2008-10-19 02:28 | 読書/赤江 瀑
[正倉院の矢] 赤江 瀑
[正倉院の矢] 赤江 瀑/文春文庫※多分、絶版

完成された何か、は勿論美しいのだと思う。
でも多分、その全うされた美は生きてはいないのだろうとも思う。

欠損する、穢される…完全なるものから、不完全なるものへ。不完全だからこそ、完全よりも影と光に充ちて、生々しく生きてくる。


本書に収められている短篇には、総てにそんな歪みを覚える。不穏だからこそ安寧が際立ち、戻れないことを自覚する刹那に醜は美に昇華する。

「知らない」ままに過ごせたなら。
岐路を顧る誰もが思う言葉だろう。時間は一方方向にしか流れないのだから、叶えられない希みではあるけれど、思わぬ者など居ないだろう。


ミロのヴィーナスの彫像に魅入られ破滅へと至る路を進むしかなくなった二代の物語。 <[蜥蜴殺しのヴィナス]
人間を峻拒する室内空間を贖罪に迫られた青年建築家の作品。 <[堕天使の羽の戦ぎ]


欠けているから、人はそれを補おうとする。
技術のある者は創造することで補完を目指す…けれども、藝術に於いて、それはけして報われない喪失され唾棄されるしかない行為でしかない。

空想の中、或いは記憶の中…欠けた腕を様々に補おうとも。
喪ってしまった色彩を取り戻そうと繰り返しても。



全うされた十全の美は停止した美。
想像を停止されてしまったら、人は狂うだろうか、その感情すら凍結されて無機にただ生を全うするのだろうか?

足りないことの幸福が、本書には横たわっている。


※古書店、図書館でお探し下さい。

※※[蜥蜴殺し]も蔵書票にしてみたけど…PC不調の最中にデータ紛失してしまってもう作れない…渉猟した資料の中の深蒼の蜥蜴ちゃんはとても美しかったなぁ…

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by yoiyamigentoukyou | 2008-10-17 02:24 | 読書/赤江 瀑