十字は鈍色の影を落す [ハサミ男] 
原作が刊行されて随分経っていることに改めて気付きました。今だったら衝撃的な叙述でもなかったかも知れないけど、それでも当時の自分には解くことの出来なかった作品でした。

という訳で(どんな枕やねん;)、ようやく関西で封切りになった[ハサミ男]を見てきました。


その清楚な少女は、酷く装飾的な姿でその生を終えていた。性的陵辱はない。ただ、その細くなだらかな喉から生える、研ぎ澄まされたハサミが彼女を鈍く映し出していた。
以降、同様の手口で猟奇殺人が連続する。マスコミはこのシリアルキラーを"ハサミ男"と名付けたのだった。

そうして、3番目の殺人が起きる。発見者は"ハサミ男"。
狙っていた少女を己の犯行を模して殺害された"ハサミ男"は独自に調査を開始する。



≪映像→原作≫、という流れよりは、≪原作→映像≫と流れる方が、より感じるところの多い作品であるのではないかと思います。衝撃度、という点からも映画を見る前に原作を読まれることをお薦めしたいかも。

既に冒頭において答えの半分は晒されている。けれど、その答えが本当に完成するのは、物語の最後である。作品を読んだ時、「これは文章だから出来るんだ」とびっくりしながら思ったのですが…真逆に興すことでこういう読み替えが出来るのかぁ、と勉強になりました。

原作付きの映画で、過去に見て来た映画の中ではかなり高ランクに入る。最小限のキャストで魅せてくる部分は、映画というよりも舞台的な印象を受けました。

どちらかと言うと、原作ってイッちゃってる感じがするんだけど、映画はとても繊細な感じを受ける。とても切ない。

結末へ急転していく心理的な葛藤と、贖罪と赦しの兼ね合いが原作以上の叙情を覚えさせました。


…映画見て原作読むと、印象が違いすぎるんで困惑する人とか出そうですね(苦笑)。なんせ殊能さんの文体、割と癖があるし(出る作品は一通り読んでるけど、[ハサミ男][美濃牛]以降、なんか掴み処が無いっていうか、ぶっ飛び過ぎな作品ばっかなので;)。

これまで豊悦のこと、気にしたことなかったんですが(金田一も見なかったし、ドラマも見てない…;)、病院のベッドで横になってた豊悦とか、腕を広げて磔刑とも十字とも取れるシルエットを描く処とか…妙に印象に残ってます。

[PR]
# by yoiyamigentoukyou | 2005-06-02 21:20 | 映画も観る
手を叩こう、この穹の向こうに散る翅に [青い春] 
時折、無性に観たくなる作品がある。
別段自分の学生時代が無為に流れて行ったとは思ってはいないけれど、それでもこの虚無は馴染んだ感覚でもある。


青い春

甘い、痛ましいフィルム…だと思う。既に遠くなってしまった時期だけれど、思えばその感傷は今でも胸からは去らない。
だから、この作品に対して、何年経っても冷静になれない自分がいる。

エンドロールが流れ去った、隠された時間の向こう側。
九條の視界では今もただ四角いだけの蒼穹が広がってるのだろうか…


退屈が人を殺す瞬間、そんな印象がある[青い春]。
あらゆる意味での、死。
倦んでいる激情が塗りつぶせない闇に爆ぜるような、そんな雪夫の殺意…木村の選択…青木のレコードと墜落…何処にも行けないことで逆に突き抜けてしまっている九條…

原作はただ壊れた若い日常を切り取っていただけだけど、フィルムは空気に甘さを加味してる。
吐き気がするくらい、唾棄したいくらいに…甘い。

[ピンポン]と両方観て、ようやくバランスが取れた映画でした。
ペコとスマイルはきちんと分化できたよね。
でも九條と青木は精神的に癒着し合ったまま片翼を自分たちでもぎってしまったように感じて…


翔べた? 青木。

ねぇ九條、皆 いなくなっても、君はきっと学校を楽園と呼ぶんだろうね。


九條は言葉にすることで[世界]が壊れるのを忌避しようとしたんだと思う。
でも青木はね、九條。「嫌い」でも「サヨナラ」でもいいから語って欲しかったと思うよ…

青木のこえ、聴こえてたでしょう?


解散してしまったミッシェルガンエレファントの、硬質でざらついたナンバーが彼らの衝動をよく現してると思う。

何時までも動けないまま、あの春を見上げる青木の影と並ぶ、
九條のシルエットが切ない。



どんなに時間が経とうとも、薄れない記憶がある。
九條が呑み込まざるを得なかった痛みは、きっと血の錆香のように甘くて苦いのだろう。多分、私はまだ学生時代に遭った、教授の死を昇華出来ていないのだろう…だから、この作品の蒼穹に、いつも乱される。


この作品で、初めて松田龍平を見たんですよ。
凄絶なまでの眼差しの色香というか…何も視ていないかのような透徹さに、本当に綺麗だと思いました。

以降、氏の出演作は大方観てますが、やはりこの九條という役の印象が離れないでいます。

…ネタバレですね; 未見の方、済みません。

[PR]
# by yoiyamigentoukyou | 2005-05-04 21:23 | 映画も観る