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死と詩と始と [クリムト]

完成されないから、欠けているから。
多分、美も醜も、補完し合うことで成り立っている同一の何か、なのかなぁ?
…そんなことを、ぼんやり思いました。


吹雪舞う白々とした日中、愛弟子・シーレだけが見守る病室でその生を終えようとしている画家・クリムト。朦朧としてゆく意識の中、語られ始める、切り取られた彼の生の縷々とした物語。


非常に豪奢で、繊細で。モノクロの残された写真でしか見ることの出来なかった衣装デザインや制作風景が極彩色で其処に在る…華やかで、同時に腐れている、そのバランスが歪で眩暈がする。

私は、中学の時かな、同朋舎でしたっけ? 現在の週間分冊の走りのような、西洋絵画の週間分冊の一冊でクリムトの絵を知りました。中学時代は月のお小遣いは3000円で、この分冊誌は確か、550円くらいしたと思うんですね…単純に毎月お小遣いの7割を持って行かれてしまってたんですが、今も時々眺めます(といっても好きな画家のしか見ないけど)。

なんというか、文様のような意匠が能とか歌舞伎の意匠にも似てるようで、金箔をふんだんにあしらわれた女性たちのうっとりした表情がとても柔らかで。
[ダナエ][金魚][接吻]…[ベートーヴェン・フリーズ]。大好きな絵を数え出したらキリが無くなりますが、どれも流れるようなラインの美しさというか凄絶さに、心底、魅了されたことを覚えています(クリムト展でもぼーっと観てた)。


クリムトというと、スキャンダラスな、という印象がありました。厭らしい意味じゃなくて、露悪的というか…こう、本当に愛している、傾倒している存在に対しては恐ろしくストイックなのに、それ以外のことに関しては開放的というか(母親の異なる子供が何十人と居たりとか)。
凄く、不思議な存在でしたが、このフィルムに接して、更に一層不可思議な印象は強まりました。

クリムト自身がひとつの目という器官。
その生の時間自体がひとつの大河、一条の水流。詰まる処、誰だってそうなんだけれど。

極めて鋭敏に、その視覚を研ぎ澄ますことで、クリムトは鏡に近しい処まで自身を引き上げたのかな、と。
そこまで自己を透過出来た人だったのだとすれば、その作品が逆に彩りに充つのも当然なのかも。


クリムトの生涯を追うフィルムなのかと思っていましたが、多分、鑑賞者に「お前は誰だ?」と問う、視線のフィルムでした。

とまれ、当時のウィーンとは、パリとは、を想像する時、きっと私はこのフィルムの視界を思い浮かべることになると思います。爛熟し、退廃してゆく流れは、現代に似てるけど、比べ物にならないくらい優雅で、厭らしい。

by yoiyamigentoukyou | 2006-12-01 20:47 | 映画も観る