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崩壊する、という視覚的な破局が堪らなく好きだ。
それが映像であれ、小説の行間から立ち上るものであれ。

予告編を見て以来、公開を楽しみにしていた[ブラザーズ・グリム]を観て参りました。道頓堀にチャリで乗り込んでごめんなさい…。
上映時間ギリギリに飛び込んだので、パンフは粗筋しか浚えなかったのですが、結構、引き込まれました。


仏占領下の独、マルバデンという村落の森で発生した少女の連続失踪事件。魔物退治(実はペテン)で名を馳せていたウィルとジェイコブのグリム兄弟は仏軍の拷問魔・カヴァルディの監視の許、少女たちを取り戻す為に村の猟師の娘・アンジェリカの案内で眠れる女王の塔を持つ魔物の森を訪れる。

牙を剥く森、止まらない少女たちの失踪…やがて、兄弟たちは恐るべき儀式へと辿り着き……



[赤ずきん][ラプンツェル][眠り姫]…様々な童話たちが細かく裁たれ新しく継ぎ直された、キルトのタペストリーのような仕上がり。映像が綺麗で(時折グロテスクで)、勇敢さも切ない場面もあったりして、華やかでした。

枝や根を触手にして襲ってくる森の樹々の描写が本当怖い。
妹を貧困から亡くしてしまったという悔恨を持つからこそ徹底したリアリストで社交術に長けたウィルと、同じく妹を救えなかったからこそ逆にマルバデンの森の「本物の」異界・魔物に烈しく惹き付けられるジェイコブ…兄弟愛というか、補いながら歩んでいく兄弟の形が印象的。

上映直前にパンフで兄弟の写真を見た時、「弟役の役者さんの方がなんかハンサム?」とか感じたんですが、帰宅してパンフ読んでて納得。オファー時の配役と逆の組合せになってたんですね…でもって普段の役柄も今回とは逆らしく、自分の感覚も結構アテになるなぁ、と(苦笑)。

…ラストは、もしかしたら本当は悲劇だったんじゃないのかな、と。
パンフで読む限りかなり興行主と監督とで揉めたらしいですね。
魔は本当は人の心…欲、というか。そういう部分で、最後には助からない存在っていうのが出てくるのかな、と。


ネタバレになるんで書きませんけど、最後であのまま、あの人物は目覚めないのではないか、とハラハラしました。でも凄いしんみりさせた後、あの一言(笑)で一瞬にして劇場内の張り詰めた空気を緩和させたのは凄いと思います。 ←見た人なら通じると思うのですが。

だってもう、泣けたもん…想いが苦しくて。


また観てみたい作品です。
グリム童話に詳しいと、もっと楽しめるかと思います。

# by yoiyamigentoukyou | 2005-11-10 21:13 | 映画も観る

深い深い、何故かしあわせな安らぎをくれるチョコレートの色彩。
残念ながら、私の運んだ劇場では香りの演出はありませんでしたが(笑)。


今にも崩れそうな絶妙な傾斜の小さな家に、両親と寝たきりの4人の祖父母と共に暮らすチャーリー。一年に一度、誕生日の日にだけ食べることが出来る大好きな”ウォンカ”の板チョコレート。
15年も閉鎖されたまま、無人のはずなのにチョコレートを生産し続け、世界中を虜にし続ける謎のチョコレート工場。けれどもこの年、工場主にして天才的ショコラティエ・ウォンカのたっての希望で、工場の門が開かれることになる-曰く、板チョコレートの包装に封入りされた、5枚の招待券・金のチケットを手にした5人のこどもたちを一日だけ工場に招待する。

ウォンカのチョコレート工場、その秘密とは……



何と言っても、この傾斜した不可思議な歪みを持つチャーリーの住む家、これがもう、ティム・バートンって感じでした。屋根とか床とか、抜けて居るのに、雪に覆われた屋根から零れる室内の橙色の光りがとても暖かくって。
…チャーリーが本当、健気でね、開始早々に泣いてしまいました。
チケットが彼の許に舞い込むまで泣いてましたよ、工場の中以降はちっとも泣けなかったんだけど(…感じ入る箇所が絶対人とずれてるよね、俺;)。

私、ティム・バートンの作品って、うろ覚えの[ナイトメア・ビフォア・クリスマス]と、頭から最期まで泣きっぱなしだった[シザー・ハンズ]しか知らないんですが(しかも両方TVで偶々見ただけ)、なんていうか、寂しいけど暖かい、でもやっぱり哀しいっていう感じがあって。
この作品も、寓話というか、大人の人ほど耳に痛い、風刺的な内容だと思うんですが…それを視覚的に提示して諭すウォンカ自身が心に欠けた部分を持っていて、最後にそのピース(欠片と平穏)を得ることが出来たというのが、優しくって。

貧しくても、何が大切なことなのかをちゃんと識っているチャーリーに、本当に背を正される思いでした。


それにしても、ウンパ・ルンパという小人の一族だとか、訓練されたリスたちだとか…凄まじいまでの意匠に溜め息。凄いなぁ…文章や絵で表わすのは簡単だけど、それを造形に顕すのは本当に大変だったろうなぁ、と思う。

とまれ、実は一番感じ入ったのはクリストファー・リーだったり;
白衣をまとって、思い掛けない邂逅に慄きを隠せない演技が素晴らしかったです。

# by yoiyamigentoukyou | 2005-10-25 21:16 | 映画も観る

原作が刊行されて随分経っていることに改めて気付きました。今だったら衝撃的な叙述でもなかったかも知れないけど、それでも当時の自分には解くことの出来なかった作品でした。

という訳で(どんな枕やねん;)、ようやく関西で封切りになった[ハサミ男]を見てきました。


その清楚な少女は、酷く装飾的な姿でその生を終えていた。性的陵辱はない。ただ、その細くなだらかな喉から生える、研ぎ澄まされたハサミが彼女を鈍く映し出していた。
以降、同様の手口で猟奇殺人が連続する。マスコミはこのシリアルキラーを"ハサミ男"と名付けたのだった。

そうして、3番目の殺人が起きる。発見者は"ハサミ男"。
狙っていた少女を己の犯行を模して殺害された"ハサミ男"は独自に調査を開始する。



≪映像→原作≫、という流れよりは、≪原作→映像≫と流れる方が、より感じるところの多い作品であるのではないかと思います。衝撃度、という点からも映画を見る前に原作を読まれることをお薦めしたいかも。

既に冒頭において答えの半分は晒されている。けれど、その答えが本当に完成するのは、物語の最後である。作品を読んだ時、「これは文章だから出来るんだ」とびっくりしながら思ったのですが…真逆に興すことでこういう読み替えが出来るのかぁ、と勉強になりました。

原作付きの映画で、過去に見て来た映画の中ではかなり高ランクに入る。最小限のキャストで魅せてくる部分は、映画というよりも舞台的な印象を受けました。

どちらかと言うと、原作ってイッちゃってる感じがするんだけど、映画はとても繊細な感じを受ける。とても切ない。

結末へ急転していく心理的な葛藤と、贖罪と赦しの兼ね合いが原作以上の叙情を覚えさせました。


…映画見て原作読むと、印象が違いすぎるんで困惑する人とか出そうですね(苦笑)。なんせ殊能さんの文体、割と癖があるし(出る作品は一通り読んでるけど、[ハサミ男][美濃牛]以降、なんか掴み処が無いっていうか、ぶっ飛び過ぎな作品ばっかなので;)。

これまで豊悦のこと、気にしたことなかったんですが(金田一も見なかったし、ドラマも見てない…;)、病院のベッドで横になってた豊悦とか、腕を広げて磔刑とも十字とも取れるシルエットを描く処とか…妙に印象に残ってます。

# by yoiyamigentoukyou | 2005-06-02 21:20 | 映画も観る

時折、無性に観たくなる作品がある。
別段自分の学生時代が無為に流れて行ったとは思ってはいないけれど、それでもこの虚無は馴染んだ感覚でもある。


青い春

甘い、痛ましいフィルム…だと思う。既に遠くなってしまった時期だけれど、思えばその感傷は今でも胸からは去らない。
だから、この作品に対して、何年経っても冷静になれない自分がいる。

エンドロールが流れ去った、隠された時間の向こう側。
九條の視界では今もただ四角いだけの蒼穹が広がってるのだろうか…


退屈が人を殺す瞬間、そんな印象がある[青い春]。
あらゆる意味での、死。
倦んでいる激情が塗りつぶせない闇に爆ぜるような、そんな雪夫の殺意…木村の選択…青木のレコードと墜落…何処にも行けないことで逆に突き抜けてしまっている九條…

原作はただ壊れた若い日常を切り取っていただけだけど、フィルムは空気に甘さを加味してる。
吐き気がするくらい、唾棄したいくらいに…甘い。

[ピンポン]と両方観て、ようやくバランスが取れた映画でした。
ペコとスマイルはきちんと分化できたよね。
でも九條と青木は精神的に癒着し合ったまま片翼を自分たちでもぎってしまったように感じて…


翔べた? 青木。

ねぇ九條、皆 いなくなっても、君はきっと学校を楽園と呼ぶんだろうね。


九條は言葉にすることで[世界]が壊れるのを忌避しようとしたんだと思う。
でも青木はね、九條。「嫌い」でも「サヨナラ」でもいいから語って欲しかったと思うよ…

青木のこえ、聴こえてたでしょう?


解散してしまったミッシェルガンエレファントの、硬質でざらついたナンバーが彼らの衝動をよく現してると思う。

何時までも動けないまま、あの春を見上げる青木の影と並ぶ、
九條のシルエットが切ない。



どんなに時間が経とうとも、薄れない記憶がある。
九條が呑み込まざるを得なかった痛みは、きっと血の錆香のように甘くて苦いのだろう。多分、私はまだ学生時代に遭った、教授の死を昇華出来ていないのだろう…だから、この作品の蒼穹に、いつも乱される。


この作品で、初めて松田龍平を見たんですよ。
凄絶なまでの眼差しの色香というか…何も視ていないかのような透徹さに、本当に綺麗だと思いました。

以降、氏の出演作は大方観てますが、やはりこの九條という役の印象が離れないでいます。

…ネタバレですね; 未見の方、済みません。

# by yoiyamigentoukyou | 2005-05-04 21:23 | 映画も観る